一つ前の日記に書きました通り、ホームページビルダーの転送が、もう全く
言うことをきいてくれません。
後日なんとかなったら、いつもの場所にアップし直しますが、とりあえずこれは
クリスマスに読んでいただくことが目標なので、今回掟破りですが、
以下にアップさせていただきます。
聖夜 14
「よーし、いい感じ」
大輔はいつもより少しだけ洒落たセッティングで飾ったテーブルに満足し、室内を見渡した。
今日は楽しいクリスマス。オーブンでは鶏がじゅうじゅう音を立てて焼けていたし、ツリー代わりというには小さいガラス細工のサンタが、テーブルの真ん中に鎮座している。
「パンもあるし…ワインもあるし…」
少々手狭とはいえ、日本の感覚から言えば十分広い2LDKは、居心地よく温かい。まだ引っ越したばかりで 荷物が少ないからきちんと片付いている、そのせいもあるのだろうが。
独り立ちしたばかりの若造の城としては、まずは満足と言っていいだろう。
(正確には、独り立ち…ってのとは違うよなあ)
大輔にはこの部屋で一緒に暮らすパートナーが存在したし、そのパートナーとは、勿論。
勿論……。
(タケル、早く帰ってこねーかな)
その時、ソファーの上に起動したまま投げ出してあったノートパソコンが、スカイプの呼び出し音を派手に響かせた。
「え? お、賢?」
大輔はパソコンを、皿をかき分けテーブルの隙間に置き直し、液晶画面と向き合えば。
「メリークリスマス、大輔!」
少しぎくしゃくした画面の中では一乗寺賢と、寄り添うように井ノ上京が、満面の笑みを浮かべて手を振っていた。
二人はこの夏婚約して、来年は籍を入れるほどの段階で、既に一緒に暮らしているはずだ。
「よお、おまえらもクリスマスか?」
大輔の呼びかけに、画面の左右から、更に2つの顔が割り込んだ。
「そうよ、日本はもう、25日だけどね。そっちはまだ、イブでしょ?」
明るい声はヒカリの声だ。もう一人の伊織は、心なしかむっつり大輔を睨んでいる。
「伊織ったら、もういい加減祝福したげなさいって。ったく、いつまでもタケルくん信者なんだから」
「信者とかじゃないですう」
京に小突かれて、伊織は口を尖らせた。
「大輔さんはずるいです。ずっとタケルさんに冷たくしてたくせに、いきなり!」
「ああもう、それが信者って言うのよ!」
「それに、そういきなりではなかった気がするよ」
「ともかく、落ち着いた頃かなと思って。一度ちゃんと報告聞きたかったし。もっとも二人きりのクリスマスにお邪魔かも知れないけど」
ヒカリがからかうように微笑んだ。
「邪魔って言えば、あたしと賢くんのクリスマスにも邪魔入ってるし~」
あ、京子さんひどい、うそうそヒカリちゃん拗ねないで…そんなじゃれあいが、なんとなく大輔には懐かしい。
日本を離れて、まだ数ヶ月しか経っていないはずなのに。
と言っても大輔は、大学時代2年間、アメリカ留学で日本にはいなかったわけだけれど。留学を終えて帰国、日本の大学の単位は取った、一年置いて再留学。思えば、ばたばたしたものだ。
後はこちらのビジネススクールの課程を終えれば、起業の夢が実現可能な位置まで近づいて来るわけで。
「それで、タケルくんは?」
賢が画面越しに大輔のいる室内を伺って、そうきいた。
「今いないの? 仕事かな?」
「あ、買い物出てる。もう帰るんじゃねーの?」
「そっか、ならいいんんだ。まさかいきなり喧嘩とかしてないよね」
「してねーよ!」
「あはは、だってさ…まあ、驚いたよ。まさか大輔とタケルくんが…ね」
「ほんとほんと。思い切ったっちゃ、思い切ったよね」
「あ、あたしはちゃんと祝福してるよ」
「……ぼくはまだ信じたくありません」
四人はそこでちょっと神妙な顔になった。顔を見合わせてから、代表して京が叫ぶ。
「まさかあんたたちが、駆け落ちなんてするとはね!」
「うわあ…」
言われてしまった、大輔は思わず赤くなった顔を覆う。
駆け落ち。
大輔とタケルは、二人でアメリカに駆け落ちした。
と、日本にいる彼ら友人どもや家族は思ったのだろう。
それは確かに事実であって。
「うるせーな、いいだろ別に!」
「いいけどさ~。あたしたち、あんたらの親の突撃受けて、結構迷惑被ったわよ」
「もっと早く教えてほしかったです」
「ええと、大輔はちゃんと連絡来したじゃない、みんなに。ね、そうだよね?」
「当日、空港から、メールでね!」
事前に打ち明けられていた、ヒカリと賢は、拗ね気味の京と伊織に話を合わせているようだ。
大輔とて、隠すつもりではなかったが、広めることでもないと思った。タケルが「ヒカリちゃんには事前通達するよ」と言ったから、口裏合わせも兼ねて賢に事の次第を打ち明けていたのだ。二人が消えて、親が消息を尋ねるなら、大輔側は、まず親友「一乗寺賢」だと予想したし。
大学時代、ずっと住んでいた隣同士のアパートを解約し、荷物の処分と発送、大学への所々の手続き、そんなことを全部終えて、二人が一緒に消えたのは、今年の夏の終わりのことだった。
それがつまり、駆け落ち、で。
「まあその、家族がみんなに迷惑かけたのは、悪いって思ってるよ」
「ふふーん、面白かったから、いいけどね」
相変わらず楽天的なのは、京。
「親御さん、心配してたんだよ」
真面目なのは、賢。ヒカリが心配っていうか、と続ける。
「ジュンさんが一番怒ってたよね」
「……ったく」
あの姉が、元凶だった。
大輔の姉、ジュンがタケルに接触し、「弟と別れろ」と迫っていたこと。それをタケルが半年以上大輔に隠していたこと。その結果、徐々にタケルが消耗したこと。
それが大輔は、一番許せなかった。
もっとも、ジュンの別れろコールが激しくなったからというのは結局はきっかけで、本当は二人共、こんな機会を待っていたのかもしれない。
何かを思いきれる、きっかけ。
少なくとも、大輔は。
次のステージに、一歩を踏み出すことを望んでいたから。
「馬鹿姉貴、騒ぐだけ騒いで、結局破局しなかったんだぜ。婚約者が弟は弟、君は君だって言ったら手のひら返しやがってさ。ムカつくったらねーよ」
「それは、だって、姉弟だもの。思う所は色々あったんじゃない? ヤマトさんだって、日本にいたら大騒ぎだったよ、きっと」
「………………」
ヤマトはアメリカの大学へ進んだ後、一度も日本には帰らなかった。帰れなかった、のだろう。
「大輔の方は取り乱してたけど、タケルくんの御両親は、なんかただ呆然、って感じだったね」
(そりゃそうだろう)
ヤマト絡みで、タケルの両親こそ、思う所があったはずだ。山ほどに。
(結果的には俺はあいつに親を捨てさせたようなもんだから)
大輔は、それを後悔はしていない。罪悪感も持っていない。多くを捨てたのは、自分もまた同様だったし。
自由になるにはどうしたらいいか。この先二人で居るにはどうしたらいいか。
考えて、考えて、その結果が。
手に手を取って、日本を後にした。駆け落ちと称される、今回の騒動。
大輔の祖父がアメリカでの学費を出世払いで出してくれたこと、タケルが既に物書きとして仕事を得るようになっていたから出来たことだけれど。
タケルはあっさり所属していた院を休学扱いにしてしまった。バイト先の出版社で、ぼちぼち雑文は書いていたし、そこのアメリカ支社の法人向け雑誌の編集部に移動をもらい、大輔より一足早く社会人だった。それにこっそり小説だかなんだかの物語を、こつこつ書き溜めていることも知っている。
だから二人は逃げたわけではなかったし、捨てたものがあるとしたら、それは余計なしがらみだけで、仲間たちとの絆は健在で、これから掴むものも多いだろうし…。
「俺、親は、いつかはわかってくれるかもって思ってんだよね」
そこは都の楽天的を見習って。
「タケルはどう思ってるか、かわかんねーけど」
「あら、案外自信ないじゃない、大輔?」
「京さんてば。大丈夫だよ、大輔。あのタケルくんが自分の意に反することに流される、なんてあるわけないし」
そうだろうか、大輔は思う、タケルは実はあれで、結構流され易い面もあって……。
「あたしも大丈夫だと思うよ、大輔くん」
けれどもしかしたら大輔よりタケルを理解しているかもしれない、ヒカリは賢の言葉を肯定した。
「大輔くんは、自分を信じればいいと思うよ」
きっぱりと、言い切った。
「それにしてもさー、あんたらいつから、そーなってたの?」
「へ?」
京のいきなりの突っ込みに、大輔はまた顔を赤くする。
「だからさ、仲悪かったよね、冒険の頃。それからなんとなーく、少しは仲良くなったかなーって感じはしたけど」
「えーと京さん、それは大学で二人が一緒に住みだした辺りから、なんとなく」
「えー、ずるい、賢くん分かってたんだ!」
「一乗寺さん!」
京と伊織に追われ、賢は画面からフィールドアウト。
残ったヒカリが、くすりと笑う。
「大丈夫と思うけど…きっとまだ大変だよ。がんばってね、大輔くん」
「おう、任せろ。自分を信じて、いいんだろ?」
「大輔くんには感謝してる」
ヒカリの声は、少しばかり寂しそうに聞こえないこともなかった。
「タケルくんを明るい方向に動かしてくれたこと。うん、救えるなら大輔くんかもって思ってた」
「救えるって?」
「暗黒の海から」
「…それは比喩だよね?」
一瞬表情を失くしたヒカリの瞳が、暗い海の色のように深くなったのは気のせいだったのか。どちらにしろそれは、画面のこちら側の大輔にだけ、他の三人には見えない顔だった。
「うん、そう。ただの例え。タケルくんってほら、見かけによらず後ろ向きだから、一人にしてたら、暗黒の海にずんずん潜ってくイメージ」
「………」
「ふふ、でもこれからは、おひさま大輔くんが隣にいれば、大丈夫だよね」
「おひさま、ってなんか馬鹿にしてねえ?」
「してない、してない」
「ヒカリちゃんは……」
大丈夫、なのか、と。
あの海からは、今はもう遠い場所にいるのか、と。
でもそれは自分が聞くべきじゃない、そう思った大輔は、慌てて首を振った。
「なに?大輔くん」
「んー、なんかヒカリちゃん、タケルに未練ありそうで、おれちょっとヤキモチ。あ、それとも実は俺?俺を振ったのを後悔してる?」
ヒカリは大輔くんも言うようになったね、と笑った。
「どっちでもない。うーん、親友攫われちゃったのが寂しい、ってとこ?」
ヒカリの言葉を受け、賢が再び画面に割り込んで来る。
「あ、八神さんぼくと同じだ。ぼくも大輔と気軽に飲みに行けなくなって、寂しい」
「ばーか、賢、大した距離じゃねえし」
同じ地球じゃん。会える会える、いつだって。まだまだ俺たちは、これからだ。
続いて京、伊織で、画面は再び満員となった。
「そうよ大輔! あたしたちのお式には出席してよ! タケルくんと二人とも!」
「タケルさんを泣かせたら、ぼくがもらいますからね」
「はいはい、タケルにそう言っとくよー」
「…本気にしてないし!」
そこで賢が、空気を読んだ。
「ところで、あんまり長話も悪いよね。時差もあるし、ぼくらそろそろ…」
「えー、まだタケルくんと話してない! 大輔のどこがよかったのか、とっくり問い詰めようと思ってるんだから」
「そうですよー、ぼくはタケルさんと話たいんです」
「問い詰められてたまるか! おまえらうるせー! もう切るからな!」
大輔はマウスをかちりと……。
「ただいまー」
その時、前触れ無く居間のドアが開いた。少し鼻の頭を赤く染めたタケルが、勢いよく室内に飛び込んで来た。
「お、おい!」
タケルはそのまま、大輔の腕の中にダイブする。
「メリークリスマス!」
「わ、つっめてー! って、なんだおまえ酔ってんのか?」
「下の階の住人に捕まって、シャンパン1杯」
「1杯?」
「2…3杯?」
「この酔っ払い…てか、無防備に他人の部屋上がってるんじゃねーよ」
「大輔くんの、ヤキモチ妬き~」
「ほら、ケーキ潰れるだろ? なんかこれ、やけにでかくね?」
危なっかしく振り回すタケルの手から、ケーキの箱を奪い、テーブルへ。ついでにすっかり冷たい帽子やマフラー、コートまで剥ぎ取って。
「言ってた大きさと違う…」
「大きいことは、いいことだよ」
「アメリカのって、緑とか青の毒々しいケーキだろ! 誰が食べんだよ」
「ぼくが食べまーす」
「ったく…」
身軽になったタケルは、改めて大輔に飛びついた。
「さむいよー、だいすけくーん」
「とっとと帰ってこねーから。っとに、髪まで冷てーぞ」
さらさらと、金の髪を大輔は指に絡める。タケルが甘えているのがわかったので、大輔も目を細めて、ちゅっと軽く唇を重ねた。
「ご機嫌じゃん……今でも嫌いか、クリスマス?」
タケルは意地悪く首を傾げ、焦らすように笑った。
「どうだろう」
「嫌いじゃないだろ。俺も変わった。おまえも…変わった。もうあの頃の子供じゃねーし」
あの頃の子供…テトラポットの陰、冷たい砂の上に座り込んで、クリスマスなんて大嫌いと泣いた、遠い昔のタケル。予期せぬ涙に途方に暮れた大輔。
「変わった、か。確かに変わったよね、きみとぼく」
「ああ。そりゃ、えーと、まだ全然そんな完璧な大人じゃねーし、自分でもガキだなってか、小学生の頃と考え方変わんねーってとこだってあるけど、全体的に見たらさ。今回のその、駆け落ち?だって俺、逃げたんじゃねーと思ってる」
「じゃあ、何?」
「み…未来への前進?」
タケルは爆笑した。
「うん、ぼくも逃げたとは思ってない。自分でもそんな自分に感心してる。昔だったら出来なかったことだから」
「そっか?」
「あの頃のぼくは…世界がやたらに怖かった」
「怖かった?」
「そう。自分はとても怖い場所にいるんだと思って…一人だと思って…不幸な気がして…暗く世界を憎んでた。うん、中二病だね。呆れるくらい」
「でもおまえが淋しかったのは、ほんとだろ?」
「きみの気をひくための、ふりだったんだよ」
「…おい」
まだそこで強がるか、と思ったら。
「ふりだと思いたかったんだよ、弱虫だから」
本心じゃないと思えば、約束なんて破るのが当たり前だと思えば、傷付くこともないはずだから。
それを認めるくらいには、タケルも多分、少しは大人に。
「……そっか」
大人になるのも、そんなに悪いことじゃない。
「ね、あの時、約束したよね」
と、ふいに真顔でタケルが言った。
「うん?」
「クリスマス、きみはこれからずっと一緒にすごしてくれる、って」
「…ああ」
「きみは約束を守ってくれた。僕を一人にしなかった。だからぼくは強くもなれた。だから、いいんだ」
「いいって? なんだよおまえ、そんな言い方、まるで」
別れ話の前フリだぞ、と。
「ずっと言わなきゃって思ってた」
「………なにを」
「もうあの約束は、終わりにしよう」
幾度も二人で過ごしたクリスマス、時は流れて、今がある。
「君を解放してあげる」
「…………」
大輔の眉は、情けない形にぐうっと下がった。
下がった後で、もう一度、ぎゅっと瞬きしてタケルを見た。
タケルは相変わらず大輔の腕の中に包まれたままだったし、その瞳はクリスマスツリーの星みたいに、瞬いて笑っていたのだった。
「これからは、ぼくがきみのそばにいる。きみがぼくにくれたより、幸せなクリスマスを、きみにきっとあげるから」
幼い約束。
そもそものはじまりは、幼く、ちょっと愚かな約束だった。
でも、とても優しい約束だった。
大人になっても、多分、まだ。
「タケル」
「うん」
「ずっと、一緒にいよう」
「うん」
交わしたキスは、もうすっかり、お互い馴染んだキスだった。
「そういえばさ」
大輔が、ちょっとドヤ顔で呟いた。
「俺の夢、叶ったなあ」
「夢? なに?」
「ファーストキスの相手と結ばれたいっての」
呆れた、タケルはわざとらしい溜め息を零す。
「小6の時の?…あんなの事故で痛いだけだったじゃない」
「それでも、キスはキスだろ!」
「かもしれないけど…叶っちゃった夢って、それって終わってない?」
「大丈夫だ! 一つ叶っても、俺の夢はまだいっぱい、星の数ほどあるからよ!」
欲張りだなあ、大輔くんは。
タケルは笑いながら、大輔の肩の上で瞳を閉じた。
さて、テーブルの上では大輔の料理の狭間で、電源を切りそこねたパソコンの液晶画面が、まだ鈍く光っていたのだが。
京「ねえ…適当なとこで邪魔に入ってギャグオチにしようって言ったけど、もうとっくにそういう段階過ぎちゃってると思わない?」
賢「そうだね…シャレにならない」
伊織「ああああ、タケルさ~ん…」
ヒカリ「ふふ、はいじゃあ、終わり、ログアウト」
かちり……。
あとは、ふたりで。
聖夜 終
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ほんっとうに長い間、読んでいただきありがとうございました。
クリスマス連載「聖夜」今回で、ラストです。
何年いつまで続けるんだ、続けられる限り続けようと思ってやってきましたが、
デジモンアドベンチャー続編が来年より(2015・春?)始まる、というわけで、
公式に中学生のタケルたちが登場することで、区切りといたします。
幸せな大タケでラストを迎え、書いてきた私も安堵しております。
これからも、大タケもみなさまも私にも、よきクリスマスでありますように!